日本人の英語学習者の中には、「発音」に対して強いこだわりや劣等感を抱いている方もいるかと思います。「自分の英語は通じないのではないか」「訛っていると恥ずかしい」といった気持ちが、英語を話すことにブレーキをかけてしまうこともあります。
背景には、日本の英語教育が「正確な文法」「正しい綴り」に偏ってきた一方で、「発話」や「音声」に対するトレーニングが圧倒的に不足していた面があります。また、受験英語での評価軸にも「発音」はほとんど組み込まれていないため、「通じる発音」が何かを学ぶ機会が乏しいまま大人になるケースが多いかと思います。
また、日本社会での「完璧主義」の文化が、「ネイティブのように話せなければ話すべきではない」という不要なプレッシャーを生んでしまっている面もあるかと思います。
日本語話者特有の英語発音の傾向
日本人が英語を話すとき、以下のような発音の癖がよく見られます。
- LとRの区別がつかない:
日本語にL/Rの音の区別が存在しないため、「light」と「right」、「play」と「pray」などが同じ音になりやすいです。 - VとBの混同:
下唇を軽く噛んで発音する「V」の音が日本語にはなく、「very」が「berry」のように聞こえることもあります。 - 母音の補完:
英語は子音で終わる単語が多いですが、日本語ではほとんどの音が母音で終わるため、「cat」が「catto」、「stop」が「sutoppu」のようになる傾向があります。 - イントネーションの平坦さ:
日本語はピッチアクセントの言語であり、英語のストレスアクセント(強弱)に慣れていないため、抑揚に乏しく聞こえることがあります。
これらの特徴は決して「間違い」ではありません。言語習得においては、母語の影響を受けるのは自然なことです。問題なのは、それを恥ずかしがって英語を話すこと自体を避けてしまう傾向にあることです。
訛りは悪いこと?
世界の英語話者の80%以上が非ネイティブです。つまり、英語はすでに「ネイティブのための言語」ではなく、「国際的な共通語(リンガ・フランカ)」としての役割を担っています。
たとえば、インド英語、シンガポール英語、フィリピン英語など、地域独自の発音や表現が広く使われており、グローバルビジネスでもそれらが支障になることはほとんどありません。
大切なのは「完璧な発音」よりも、「相手に誤解されずに伝わるかどうか」です。言い換えれば、多少の訛りがあっても、聞き手が理解できる英語であれば、それは十分に「通じる英語」だと言えます。
発音矯正は必要か?
もちろん、聞き取りやすさや国際的な通用性という意味では、発音のトレーニングは有効です。LとRの違いや、語尾の音の処理、イントネーションの付け方などを意識することで、相手にとって理解しやすい英語になります。また、自分が英語を聞き取る力(リスニング)も向上するという相乗効果もあります。
しかし、「ネイティブのように話せなければ意味がない」といった過剰な完璧主義は逆効果です。語彙や文法と同様、発音も「通じるレベル」を目指すのが現実的です。
最近では、AIを使った発音アプリ(ELSA SpeakやSpeakなど)もあり、無理なく自習できる環境が整っています。こうしたツールを活用して、自分にとって必要な発音だけを重点的に矯正していくのがよいでしょう。
「日本人なまりの英語」でもいい
むしろ、訛りは個性であり、「どこの出身か」「どの文化で育ったか」を伝えるひとつの要素ともいえます。日本人が「R」が少し弱くても、あるいは母音を補っていても、伝えるべき内容に自信を持ち、明るく堂々と話すことで、相手の理解度は格段に高まります。
ネイティブのような流暢さよりも、丁寧で明瞭に話すことのほうが、グローバルコミュニケーションでは重視されることもあります。
発音より「伝える力」を意識しよう
日本人が英語の発音に対して過剰に気を遣うのは、教育的背景や文化的プレッシャーの影響が大きいといえます。しかし、英語は「通じればOK」の時代に入っています。発音の完璧さよりも、誠実な話し方や積極的な態度、自信などの心構えをもって伝える力がより重要になるかと思います。