英語で書かれた、最も影響力のあると言われる文書のひとつに The Constitution of the United States of America(アメリカ合衆国憲法) があります。
この憲法は、単に一国の法的基盤を定めた文書ではなく、近代社会における「自由」「権力」「個人と国家の関係」を表現した、英語の思想文書としての古典でもあります。1787年の制定から200年以上が経った今でも、世界中の民主主義国家の憲法理念や政治制度に大きな影響を与え続けています。
ここでは、アメリカ合衆国憲法を「英語で読む古典」という観点から取り上げてみます。
制定の背景
18世紀後半のアメリカは、イギリスからの独立を果たしたばかりの新しい国家でした。1776年の「独立宣言(The Declaration of Independence)」によって、アメリカの人々は「自由と平等」という理念を掲げましたが、実際の政治運営は統一感を欠いていました。
当時は「アメリカ連合規約(Articles of Confederation)」というゆるやかな同盟体制がありましたが、中央政府の権限が弱く、経済や防衛など多くの問題が生じていました。この状況を改善するため、13州の代表者がフィラデルフィアに集まり、1787年に「憲法制定会議(Constitutional Convention)」を開きました。
こうして、アメリカという国家の枠組みを根本から定める新しい文書――The Constitution――が誕生しました。
構成と内容
アメリカ合衆国憲法は、前文(Preamble)、本文7条(Articles I–VII)、後に追加された修正条項(Amendments)から成り立っています。
区分 | 内容概要 |
---|---|
前文(Preamble) | 「われら合衆国の人民は…」で始まる序文。憲法の目的を明示。 |
第1条(Article I) | 立法府(Congress)の構造・権限を規定。二院制(上院・下院)。 |
第2条(Article II) | 行政府(President)の権限と職務。大統領選挙制度もここに規定。 |
第3条(Article III) | 司法府(Supreme Court)の役割。司法権の独立を明確化。 |
第4条(Article IV) | 各州と連邦政府の関係。 |
第5条(Article V) | 憲法改正の手続き。 |
第6条(Article VI) | 連邦法の優越・公職者の宣誓など。 |
第7条(Article VII) | 憲法批准に関する規定。 |
この基本構造の上に、後に追加された 修正条項(Amendments) が現在までに27本あります。特に有名なのは最初の10条――権利章典(Bill of Rights) と呼ばれる一連の修正条項です。ここには、信教の自由・言論の自由・集会の自由・武装権・陪審裁判の権利 など、個人の基本的人権が明確に定められています。
英語表現と文体の特徴
アメリカ合衆国憲法は、18世紀末の形式ばった英語で書かれていると言われますが、文体は明快で、主語と述語がしっかり対応しており、法的文書でありながらリズムがあります。
最初の前文(Preamble)は、英語の名文としても有名です。
We the People of the United States, in Order to form a more perfect Union, establish Justice, insure domestic Tranquility, provide for the common defence, promote the general Welfare, and secure the Blessings of Liberty to ourselves and our Posterity, do ordain and establish this Constitution for the United States of America.
われらアメリカ合衆国の人民は、より完全な連邦を築き、正義を確立し、国内の平穏を確保し、共通の防衛を提供し、一般の福祉を促進し、自由の恵みをわれらと子孫に確保するために、この合衆国憲法を制定し、確立する。
この一文には、目的の明示・語彙の秩序・節の並列という三つの特徴が見られます。長い一文ですが、語順や構成が整っていて理解しやすいかと思います。目的を次々に並べていくリズムの中に、「人々が理性と合意のもとに国を作る」という当時の精神も表れているようです。「合理主義と明快さ」を体現しているとも言われます。
英語思想としての意義
英語で書かれた文書としての憲法は、単なる法律の集合ではなく、人間は自由であり、理性によって社会を作ることができる」という、啓蒙主義の精神そのものを表しているとされます。
アメリカ憲法の背後には、ロックの「統治二論」やモンテスキューの「法の精神」といった思想的影響がありますが、「権力の分立」「社会契約」「人民主権」といった概念は、これらの思想家が打ち立てた英語的・ヨーロッパ的合理主義の流れの中にあります。
つまり、憲法の英語は「政治的な英語」であると同時に、「哲学的な英語」でもあります。
その言葉の背後には、理性・法・自由・責任という英語文化の核心部分があるとされます。
修正条項の最初の10条は「権利章典」と呼ばれ、個人の自由と権利を守るための基本原則を定めています。たとえば、信教の自由や言論の自由、集会の自由、武器を持つ権利、正当な手続きなしに逮捕されない権利などが書かれています。
どの条文も短く明快で、読むと「人間が人間として守られるための約束」を言葉にしたような印象を受けるかと思います。
現代英語との違い
憲法の英語は、文語的でありながら現代でも十分理解可能です。動詞の活用(shall, may)や古い語彙(thereof, hereinafter)はありますが、文法構造は現代英語と大きく変わりません。むしろ、「明確に伝えるための英語」として学ぶ価値があるとも言われます。
例:
No person shall be held to answer for a capital, or otherwise infamous crime, unless on a presentment or indictment of a Grand Jury.
重大犯罪の被告人は、大陪審の起訴なしに裁かれてはならない(第五修正より)
文体は古めですが、論理の筋道が明快で、法的英語の原型を見ることができます。構文を見ると主語・助動詞・動詞の関係がはっきりしており、「法律の英語」というより、「論理的に人を説得するための英語」に近い印象を受けます。
英語学習者におすすめの読み方
憲法を英語で読むとき、すべてを完璧に理解しようとする必要はないと思います。まずは 前文(Preamble) や 権利章典(Bill of Rights) の部分だけをじっくり読んでみるのがよいと思います。短いながらも、どの文にも意図が込められており、語順や言葉の選び方の特徴を学ぶことができます。
おすすめのオンラインリソース
- U.S. National Archives
https://www.archives.gov/founding-docs/constitution
公式の全文・原文PDFを閲覧可能。 - Constitution Annotated
https://constitution.congress.gov/
各条文に注釈付きの現代英語訳あり。 - 朗読版(Audio Constitution)
YouTubeなどで “US Constitution read aloud” と検索すると、朗読で聞けるものも多数あります。発音練習やリスニング教材としても最適です。
まとめ
アメリカ憲法を英語で読んでみると、難解な法律文というよりも、理性と希望を込めた約束の言葉のように感じられます。「We the People」という一文の響きには、「国は権力者のものではなく、人々の合意によって成り立つ」という強い意志がこもっているように思います。
私自身まだすべてを理解できているわけではありませんが、英語の明快さと理性、そして「自由を守るための仕組み」を端的に表現した文書から、英語の文法的な構造を超えて、そこに込められた思想や価値観を感じ取ることが憲法を読む醍醐味になるかと思います。